永野佑子さん「人権教育としての性教育」レポート
永野佑子さん「人権教育としての性教育」レポート
2021/1/13@貫井図書館
特別支援学級の元中学校教員であり、現在は「性教協障害児・者サークル世話人」である永野佑子さん(性教協=“人間と性”教育研究協議会)。
「生きる力を育てる性教育」で読売教育賞・受賞(1989年)という経歴もお持ちの、永野さんから、「人権教育としての性教育」のお話を伺いました。
【永野さんのお話】
■人権無視の「練馬方式」
- 1966年板橋区立上板橋第三中学校特殊学級(当時はそう呼ばれていた)に就職して、1982年に練馬区立旭丘中学校、1993年に石神井中学校を経て2004年3月に退職。新卒から退職まで38年間特殊学級(今の特別支援学級)の担任でした。
- 板橋区では普通の障害児教育をしてきましたが、練馬区では当時(1980年代)、「練馬方式」の特殊教育でした。
- 小学校から「バカに勉強を教えてもしょうがない」と教科学習は無くて、体育と作業(小学校はのれんづくり、中学校はコンクリートブロックづくり)、調理学習など。
- 3泊4日の宿泊訓練が年3回、遠泳、登山、スキー、スパルタ、訓練方式、勉強一切教えない…
- 小学校から障害児をたたき上げ、中学校卒業で社会で働ける障害者にする→偏見、人権無視の方式だった
- 22年間教育実践で闘いに闘い…練馬方式はなくなった
■生徒たちの「問題行動」→性教育を開始
- 1986年、小学校では通常級で問題児であった子たち(発達段階9歳くらいで知的に高い子たち)が何人か入級してきて、性的な非行を起こす。
- 男女裸でセックスまがいのことも
- ほとんどお手上げ状態、当時まだなかった学級崩壊状態。
- 担任3人で話し合い、「私が性教育をやります!」宣言
- もともと、子どものためになる授業が好きだった
■性教育をした翌日から、非行がなくなった!
- 発達段階は9歳くらい…「9歳の壁」
- 学習の遅れはあるが、生活面などは通常の子と同じくらいできる力はある子たち。
- 「先生、ケツの穴から赤ん坊うまれんのか?」
- 仕方がないので「今日は何でも教える」「聞きたいこと聞いてごらん?」というと…
- 生徒から次々と質問が!
- 「白いものはなんだ?」
- 黒板に男女の下半身の図を書いて説明。「性器、卵巣、精巣。あれー男女とも左右対称だね」・・・教師もこどもと一緒に驚き、感心しながら進めていく。
- 「あの白いものは精子と言っていのちの素なんだよ。その時精子はまだ生きてるんだよ」というと、非行の子が立ち上がって「嘘だー、それはどこで習ったー!?」と叫ぶ。他の男の子たちも同じ気持ち。
- 男もいのちの半分を持っている。男もいのちを生み出す。「大切ないのちのもとを持っている俺…」→びっくり
- それまで、自慰の快感に後ろめたさを感じていた子どもたち。自慰を悪いことをしていると思っていた→悪いことじゃない→うれしい!!感動!!
- すごく荒れていた学級が……次の日から、非行がなくなり、勉強大好きに子たちに変わる。
- バカにしていた障害児学級が自分にとって大切な学級になり、先生を信頼して尊敬するようになった。
- 科学的な学びで自分の性が、自分自身が「尊い存在」という感動を覚えたからだと思う
■性教育=何を聞いてもいい時間、何でも話せる時間に
- 近くの児童養護施設から通う子もいた
- 子どもの中に、たまっていた人生の疑問、性の疑問
- 「先生、3人年子ってやりすぎかな?」「なんで親は別れちゃったんだ?」
■そのうち子どもたちは、勉強が大好きになり…
■1989年障害児の性教育は日本で先進的な取り組み→読売教育賞を受賞!
- 全国的にも、障害児の性教育がなかった時代
- 練馬方式の小学校からは、旭丘中は性非行がひどいと白い目で見られ、生徒を送ってくれない。
- 一方で、教育委員会の学務課学事係は「練馬方式じゃない学級があるのが、ありがたい」
→練馬方式の学級に行きたくない子を送ってくれた - 1996年性教育を実践していた人たちと一緒に、性教協・障害児サークルを立ち上げ
■2019年練馬区で、「モアタイムねりま」を立ち上げ
- 知的障害児の学校は→高等部までしかない
- 高等部卒業では、障害のこどもたちの学びが足りない
- 文科省がやっと障害者の生涯教育を推進する方針を出す。
- 同じ問題意識を持つ仲間と、「モアタイムねりま」を立ち上げ
- ここは知的障害の青年たちを尊重する教育、ユニークな場
- ここでも、性教育がメインの教育
- 人生に疲れて入ってくる子が多い
- 過酷な人生を歩む障害者たちに人生を学び直し、やり直す場が必要
■性教育をやると、子どもがいっぺんにかわる!
- イキイキする
- どんな勉強をしても活気がなかったのに…
- 性教育はノリノリ!
■世界中が性教育を推進するなか、日本だけ…
性教育を進めている。知らんぷりは、日本政府だけ…
- 「性交」さえ、教えてはいけないことになっている
- 学習指導要領では、小中では「性交」は教えてはいけないことになっている。高校では、受精の仕組みや感染症は扱うが性交に関する具体的な指導の記述はない。
- 中学の保健の教科書→裸の絵から、半そでの体操着を着ている絵になった
- 2003年七生養護学校性教育弾圧事件から教育現場に性教育が戻ってこない。日本政府は意図的に性教育をスルーしている。
- それでも今、性教育を広げる民間の動きが高まっている
- 「性は人権」、ジェンダー平等など様々な運動が広まってきている
- 声をあげないと!
■良書「あっ!そうなんだ性と生」
- 障害児教育は多様な子供たちに合う教科書がない
- その為多くの市販図書が、教科書として認められている
- 性教育の絵本『あっ!そうなんだ性と生』が、東京の障害児教育の教科書として採択!
- 子どもが在籍している特別支援学校・学級で申請するよう先生に伝えましょう。
■性に係るすべてを肯定的に受け止めることが大切
- “性教育旅芸人”と称して東京の性教育仲間で講演やら授業やらやってます。
- 学校で性教育をやらないため、現在、放課後デイや障害者通所施設等で性教育を教えている
- 「自分の性器をさわれない人」ときくと、必ず一人は手をあげる
- 小さい時から「そこはさわっちゃダメ」と叱ってくると、さわれなくなる
- ちゃんとほめる「さわれるのはえらい!」と。
- 性を肯定的に!
- 子どもの時から「ダメ」を言われ続けてきている障害児
- ダメの「ダ」と聞いただけで、パニックを起こす子もいる
■先生が「ダメ」と言わないー先生のセクシュアリティが問われる
- 教室で性器をさわっている場合は、授業がおもしろくないから
- この時、先生は「さわるな」と言わない
- なぜなら性→人間の中核、一番大切なもの→心を傷つける
- 「先生は注意しないでください」「何もしなくていいんです」
- 性はあたりまえのこととして教えていい
■性器の洗い方
- 男の子は、おしっこするとき、しっかりおちんちんを持つことを教える
- 包皮をむき、おしっこしたらよくふって、包皮にいれて、パンツにしまう
- この一連の動作、知的障害の子には案外難しい
- さわりたくない、痛いし…
- 自慰(自分で射精をすること)ができるまで試行錯誤、練習、悪戦苦闘する
- 性器を自分のものにすることは、実は難しい
■「性器いじり」ではなく「性器タッチ」
- 「性器いじり」(いじり=否定的)ではなく「性器さわり」「性器タッチ」といおう
「さわったらいけない!」は大人の判断
- 「さわっちゃいけない」ではなく、きちんと触れること、男子は包皮を引いて洗う(これが痛くて大変)、女の子も自分の手でしっかり洗うことの性器洗いを教えましょう。
■おふとんのなかで何をするかは自由
- おふとん→プライベートな場所、自慰行為は注意しない
- トイレは排せつの場→「トイレに行け」はあまり良くない。
- 性は排せつではない
- 「お風呂だときれいに洗えるよ」など促す
- 人権尊重、性を肯定する対応を
■自分の体が自分のものにならないおそろしさ
- 自分の体に、さわっちゃいけない部分がある→おそろしいこと
- 射精の瞬間が怖くて自慰ができない子もいる
■自分のからだは、自分のもの!
- 自慰は性的自立
- きちんと自慰ができるように教える→大切
- 幼児語の女の子の性器の名前をつけた
- 女の子「おちょんちょん」、男の子→「おちんちん」
- もともと人間は女性、そこから男性、女性と別れていく
- 自分の体、快感がわかることも、大切なこと
- 性を肯定的に考えることが必要
■真実を教えれば、こどもは発達する
■触れ合うことの大切さ
- 1999年性の人権宣言 「セクシュアリティの豊かな発達は触れ合うことの保障が必要」
- 障害児がべたべたすると「近い近い」と止めてしまうことが多い。これも性の否定。
- 第三者が止めるのではなく二人の関係だから、二人が良ければ止められない。
- べたべたした関係を克服するには「ふれあい文化の教育的保障」を意図的に取り入れること。
- 家でも保育園でもハグをたくさんしよう、抱き合うことが1番。腕相撲、おしくらまんじゅう、相撲、などなど。中学生以上にはパートナーチェンジのできるフォークダンスや社交ダンスを取り入れよう。
■2009年 ユネスコ「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」
- 世界の平和と持続可能な社会を目指すSDGsの考えともつながるが、2009年にユネスコから国際セクシュアリティ教育ガイダンスが出て、日本が無視しているうちに2018年に改訂版が出た
- ガイダンスは8つのキーコンセプトでできている。
- 1つめに「人間関係」、2は「価値観、人権、文化、セクシュアリティ」、3「ジェンダーの理解」4「暴力、安全の確保」、5「健康とウェルビーイング(幸福)のためのスキル」、6「セクシュアリティと性的行動」、8「性と生殖に関する健康」
- セクシャリティに肯定的に向き合うことが重要
- セクシャリティがゆたかになること=人格がゆたかになること
■セクシャリティの多様性
- LGBTとSOGI(ソジ)
- 性自認が重要(GI)
- その人の性はその人が決める
- 他の人が「おまえは男だ」等といわない
- 親がその子の性を認めないために、精神的に追い詰められた教え子もいます。
- まわりがどう容認するかが問題
- 思春期は「異性への興味」だけではない「同性への興味」もある(SO 性指向)
- 「男女交際」ではなく「おつきあい」といおう(性は多様、男女の異性愛だけではない)
■ダブルマイノリティ
- LGBTで、知的障害又は発達障害をもつ人
- 自分が何者かわからず、暴れていた子もいた
- 心が男性の子にとって、月経は「絶望」
- ピルで月経こなくなり、安定する人もいる
- からだを変えてよくなるひともいれば、かえって具合が悪くなる人も
- 戻そうとする人もいる
- …いろいろ
■障害者権利条約の意味
- 障害者だけじゃなく、それまでのすべての権利保障を示す包括的内容
- 今、障害者女性に対するセクハラ事件にかかわっていますが、加害者が知的障がい者の人権を考えず、法人の理事会が加害者を擁護するので、改めて障害者のジェンダー問題は困難な問題と考えています。
【会場からの意見】
- 乳幼児の頃からの性の肯定が大切であると再認識できた
- 性器は自分のもの、他人にも親にも、簡単には触らせない大切な場所であることを、子どもを育てる人は皆、ちゃんと認識しなければならない
- 性教育がヒューマンライツにつながる
- 平和の原点は、命
- 「おちんちん」のように、あまり恥ずかしくなく口にすることができる女性器の愛称?がないのは、「女性の人格が認められてこなかったから」という話に納得した
- 自分が尊い存在だと子どもに伝えるのは、大人の責任
- こういう目線があるんだ!と驚いた